目標を追求するときに動機づけを高めるには?
『パーソナリティ研究』内容紹介
Posted by Chitose Press | On 2025年03月27日 | In サイナビ!, パーソナリティ研究私たちは日々の生活の中でいろいろな目標をもち,追求しています。目標追求の過程の中で自分の現在地を知ろうとするプロセスは進捗モニタリングと呼ばれており,いくつかのフレームがあることがわかっています。進捗モニタリングの際に,フレームのあり方,サブゴールの設定の有無,進捗の程度といった要因が動機づけにどのように影響するかが検討されました。(編集部)
大澤かりん(おおさわ かりん):筑波大学大学院人間総合科学学術院心理学学位プログラム。
私たちは,日々たくさんの目標を追求しています。学業,スポーツ,仕事,ダイエット,貯金…。どうしたらこれらの目標を達成するために動機づけを高めることができるのか,そのヒントを探すためにこの研究に取り組みました。
目標追求中の現在地を知る:進捗モニタリング
人は,目標追求を開始してから達成するまでの間で自分の現在地を知ろうとします。このプロセスは「進捗モニタリング(progress monitoring)」と呼ばれ,2種類のうちどちらかの方法で行われます。1つは,目標追求のスタート地点から現在地までの距離に注目する方法であり,専門用語では「to-date(これまで)フレーム」と呼ばれます。もう1つは,現在地からゴール地点までの距離に注目する方法であり,こちらは「to-go(これから)フレーム」と呼ばれます。例えば,「10kmを走る」という目標を追求していて現在地が3km地点のとき,スタート地点に注目するto-dateフレームでは「これまでに3kmを走り終えた」,ゴール地点に注目するto-goフレームでは「これから7kmを走る必要がある」というように現在地を把握します。
進捗モニタリングと動機づけ
この進捗モニタリングの方法を使い分けることで,目標を追求するときの動機づけを高めることができます。具体的には,スタート地点とゴール地点のうち現在地に近い方に注目すると,動機づけが高くなります。例えば,「10kmを走る」という目標を追求する過程で動機づけを高めるには,スタートしたばかりのときはto-dateフレーム,ゴールが近づいてきたらto-goフレームを用いることが適しています。このように,進捗モニタリングでは現在地から近い位置に注目できる基準が存在することが重要なのです。本研究ではこの特徴を踏まえ,さらに動機づけを高めるヒントとして「サブゴール(subgoal)」に注目しました。
小さな目標を立てる:サブゴール
サブゴールとは,最終的な目標を達成するために必要な行動を細分化した下位の目標を指します。例えば,「10kmを走る」という目標を追求するときに「2kmを5回走る」と考える場合,「2kmを走る」という小さな目標がサブゴールにあたります。このサブゴールは,進捗モニタリングで現在地を把握するときの基準として機能することが指摘されています。つまり,サブゴールを設定することで,スタート地点やゴール地点に加えて進捗モニタリングを行う際の基準を増やすことができる可能性があるということです。
サブゴールを生かすには?
サブゴールが進捗モニタリングの基準になるということは,スタート地点やゴール地点よりも近くの基準を用いることができるので,さらに動機づけを高められる可能性があります。例えば,「10kmを走る」という目標を追求していて現在地が3km地点のとき,to-goフレームで進捗モニタリングを行う状況を想像してみましょう。サブゴールを設定しない場合は,最終的なゴール地点に注目して「あと7kmを走る」と考えます。一方,「2kmを5回走る」というサブゴールを設定した場合は,2つ目のサブゴールである4km地点に注目して「まずはあと1kmを走る」と考えることができます。サブゴールを設定した場合の方がより近くの基準を用いることができるので,動機づけは高くなると予想されます。以上を踏まえて本研究では,進捗モニタリングとサブゴールを組み合わせることで,より動機づけを高めることができるかどうかを検討しました。その際に,目標達成に向けた進捗が少ない低進捗段階であるか,進捗が多い高進捗段階であるかという,目標追求段階も考慮することとしました。
本研究の実験と結果
進捗モニタリング(to-dateフレーム/to-goフレーム),サブゴール(なし/あり),目標追求段階(低進捗/高進捗)という3つの要因を組み合わせて8つの条件を設定しました。これらの要因は,「100ページの問題集を終わらせる」という目標を追求する場面を参加者に提示することで操作しました。そして,「資格試験に向けて,残りの1週間で努力しようと思う」という文に当てはまる程度を尋ねることで,動機づけの高さを測定しました。
その結果を表した棒グラフが以下の図です。サブゴールを設定しない場合,ゴール地点に注目するto-goフレームを用いると,低進捗段階の方が高進捗段階よりも動機づけが低くなっています。一方で,サブゴールを設定した場合はそのような差がみられませんでした。これは,サブゴールを設定することによって,これらのサブゴールに注目して進捗モニタリングを行うことができ,低進捗段階でto-goフレームを用いても動機づけが低下しにくくなったと考えられます。
図
本研究の意義
これまでの研究では,サブゴールを設定しない場合を想定して進捗モニタリングと動機づけの関係が研究されてきました。しかし,本研究でサブゴールの有無を考慮して検討した結果,進捗モニタリングが動機づけに及ぼす影響は,サブゴールを設定した場合と設定しない場合で異なることが明らかになりました。目標を追求するときに絡み合う複数の要因を同時に検討することは,実際の目標追求場面に生かせる知見を得るために重要です。その点で本研究は大きな意味を持つと考えられます。
今後の展望
今後は,場面を想像するのではなく実際の目標追求場面で実験を行い,進捗モニタリングの使い分けやサブゴールの設定がどれだけの効果をもつのかを検証していく必要があると考えています。また,サブゴールを達成することの難易度や,サブゴール1つあたりの大きさなど,他の特徴についても考慮して検討する必要があると思います。
文献
大澤かりん・清水登大・外山美樹 (2025).「目標追求時の動機づけを高めるには?――進捗モニタリング,目標追求段階,サブゴールに着目して」33(3), 206-217.