「良い子」であろうとして自分を犠牲にしてしまう人の特徴とは
『パーソナリティ研究』内容紹介
Posted by Chitose Press | On 2025年01月27日 | In サイナビ!, パーソナリティ研究「良い子」であろうとして,周囲の期待に応えるために自分を犠牲にし,心が不適応に陥っている状態は「過剰適応」と呼ばれます。過剰適応へのなりやすさと,自己意識特性と呼ばれる性格傾向や周りからの影響の受けやすさとがどう関連するのかが検討されました。(編集部)
亀山晶子(かめやま あきこ):国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部心理学科講師
過剰適応という人からは見えない苦しみ
私たちは日々,社会の中で人と関わりながら生きています。社会の中でうまく生きていくには,人から評価され認められるだけでなく,自身の望む自分でいることも大切です。しかし,周囲の期待に応えるために本来の自分を押し殺してしまう人もいます。周囲の期待や要求に素直に従う一見問題のない「良い子」や優等生たちの中にも,無理をして周りに合わせ,本当の自分を出せない苦しさを抱えている人がいるかもしれません。このように,周囲からは「良い子」と評価され,表向きは適応して見えるのに,内心は「良い子」でいるために自分を犠牲にし,心が不適応に陥っている状態は「過剰適応」と呼ばれます。
これまでの研究によると,過剰適応になりやすい人は承認欲求や見捨てられ不安が強く,人からよく見られることを優先する特徴が強いと考えられています。そこで本研究では,過剰適応になりやすい人の性格傾向として,自己意識特性と呼ばれる性格傾向と,周りからの影響の受けやすさに着目しました。
人から見える自分と自分だけが知る自分
自己意識特性とは,私たちが自分のどのような側面に意識を向けやすいかを示す性格特性です。自己意識特性には,公的自己意識と私的自己意識の2側面があります。公的自己意識とは人から見える側面(外見,振る舞いなど)に意識を向けやすい性格傾向で,私的自己意識は人から見えない側面(気持ち,態度など)に意識を向けやすい性格傾向です。公的自己意識の高い人は,人から見られる側面を気にするため,周囲から評価される基準に従って自分の外見や振る舞いを意識します。一方で,私的自己意識の高い人は,人からは見えない自分だけがわかる側面を気にするため,人よりも自分の意志を優先しやすいと考えられています。こうしたことから,公的自己意識の高さは過剰適応傾向につながり,私的自己意識の高さは過剰適応になりにくいのではないかと考えました。
人からの影響の受けやすさ
さらに,人からの影響の受けやすさも過剰適応傾向に関連するのではないかと考えました。人からの影響を受けやすさは被影響性と呼ばれ,被影響性が強い人は,自分の感情や意見が周囲に左右されやすいところがあります。これまで,被影響性は公的自己意識の高さと私的自己意識の低さとの関連が示されてきました。このことから,我々は過剰適応になりやすい人の背景に,公的自己意識の高さと私的自己意識の低さ,そして被影響性の影響があるのではないかと仮定し,これを検討することにしました。
本研究の目的と検討方法
今回我々は,大学生を対象として,過剰適応へのなりやすさが公的自己意識,私的自己意識,被影響性で説明できるかどうか検討することを目的としました。方法として,心理学科に通う大学生に質問紙調査を実施しました。質問紙調査では,公的自己意識,私的自己意識,被影響性を測定する心理尺度を使い,自分がどの程度それにあてはまるかを回答してもらいました。同時に,過剰適応傾向を測定する心理尺度を使って,どの程度あてはまるかを回答してもらいました。
過剰適応につながるリスク要因
測定した公的自己意識得点,私的自己意識得点,被影響性得点から,過剰適応傾向と関連するものを検討した結果,過剰適応傾向と関連が見られたのは公的自己意識のみでした。なお,公的自己意識は被影響性を高め,私的自己意識は被影響性を下げることも示されましたが,被影響性そのものは過剰適応傾向と関連が示されませんでした。この結果から,過剰適応をもたらすのは,人からの影響の受けやすさではなく,人から見られる側面を気にする性格傾向であることがわかりました。公的自己意識の高い人は,自分の外見や振る舞いを他者の目や他者の基準に沿ったものにしやすいため,結局自分よりも他者の基準を優先して動くことが多くなるといえます。そして他者の基準を優先すればするほど,自分を犠牲にする苦しさを抱えた過剰適応につながる可能性が示されました。
日常の中で誰しも自分に注意を向ける瞬間がありますが,本来の自分らしいあり方と他者から期待されるあり方が異なる場合,過剰適応のようなアンバランスな状態に陥りやすくなるといえます。他者の基準と自分の基準どちらも大事にできる自分のあり方を模索することが心の適応に重要だといえるでしょう。
論文
井出百合菜・亀山晶子 (2025).「大学生における過剰適応と自己意識及び被影響性との関連」『パーソナリティ研究』33(3), 185-187.