文化心理学〔改訂版〕
理論・各論・方法論
発行日: 2023年4月1日
体裁: A5判並製344頁
ISBN: 978-4-908736-31-5
定価: 2800円+税
内容紹介
人に寄り添う文化と人の関係性を描く
文化を記号として捉え,文化との関わりの中で創出される人の心理を探究する文化心理学。その理論や歴史を丁寧に解説し,ポップサイコロジー,パーソナリティ,学校・教育,自己,法,移行に関する12のトピックについて,文化心理学の見方・考え方を各論として紹介。方法論もカバーした決定版。近年の研究・社会動向を踏まえ改訂。
目次
第1部 理論
第1章 文化心理学の基本的射程 ●木戸彩恵
第2章 文化心理学の歴史 ●サトウタツヤ
第3章 記号という考え方――記号と文化心理学 その1 ●サトウタツヤ
第4章 時間と記号――記号と文化心理学 その2 ●サトウタツヤ
第5章 記号の取り違えとそのやっかいさ――文化のズレを包摂するための記号の価値―行為媒介説:記号と文化心理学 その3 ●サトウタツヤ
第6章 イマジネーション ●木戸彩恵
第2部 各論
第1章 文化心理学×ポップサイコロジー
①化粧から見る文化/文化から見る化粧 ●木戸彩恵
②恋愛から見る文化/文化から見る恋愛 ●木戸彩恵
第2章 文化心理学×パーソナリティ
①名前から見る文化/文化から見る名前 ●木戸彩恵
②血液型から見る文化/文化から見る血液型 ●上村晃弘
第3章 文化心理学×学校・教育
①ゼミから見る文化/文化から見るゼミ ●山田嘉徳
②不登校から見る文化/文化から見る不登校 ●神崎真実
第4章 文化心理学×自己
①ジェンダーから見る文化/文化から見るジェンダー ●滑田明暢
②キャリアから見る文化/文化から見るキャリア ●番田清美
第5章 文化心理学×法
①裁きから見る文化/文化から見る裁き ●中田友貴
②えん罪から見る文化/文化から見るえん罪 ●山田早紀
第6章 文化心理学×移行
①お小遣いから見る文化/文化から見るお小遣い ●サトウタツヤ
②震災から見る文化/文化から見る震災 ●日高友郎
第3部 方法論
第1章 記述法とまとめ方
①マイクロ・エスノグラフィ――私たちが生きる世界を訪ね直す方法 ●木下寛子
②ナラティブ・アプローチ ●土元哲平
③KJ法 ●川本静香
④複線径路等至性アプローチ(TEA) ●福田茉莉
⑤テキストマイニング ●上村晃弘
⑥アンケート ●春日秀朗
第2章 研究倫理 ●渡邉卓也
はじめに
本書は,文化心理学をはじめて学びたい,研究してみたいと思う人のための大学の教科書,文化心理学の入門書として企画したものです。改訂版には,初版の執筆時からの理論的な発展,新型コロナウイルスの流行による社会状況の変化,そして執筆者らが大学生に文化心理学の知識を教授しそこから得た気づきや,執筆者ら自身の発達が反映されています。
ここで本書の内容を簡単に解説しておきます。まず,第1部に理論を取り上げました。文化と共に生きる人を理解するためには,特定の社会・文化的文脈を生き,そこで何かに成る過程(becoming)にある人とその人をガイドする記号(sign)を理解する心理学の理論が必要と考えたからです。第2部では各論としてより広いトピックを扱いました。文化と人の関係はあらゆる人の営みに潜んでいます。文化心理学では研究の焦点の当て方により「これって心理学なのかな?」と心理学を少し知っている人なら不思議に思うようなトピックも扱うことができます。本書でお示ししたトピックは文化心理学の一部にすぎませんが,複雑な社会・文化的文脈が絡み合うなかで起こる現象をできるだけ広く,多く扱うよう試みました。そして,第3部では,実際に調査や研究をしてみようとする読者のために,文化心理学でよく使われる方法論を扱いました。本書は文化心理学を理解し実践するために必要な知識や考え方をコンパクトにまとめてあります。もっとくわしく学びたい,という人はぜひそれぞれの執筆者の書籍や論文などを手にとって,さらに学びを深めてみてください。
本書の出版に関しては,7年ほど前に共編者・サトウタツヤ先生が企画を提案してくださいました。サトウタツヤ先生は,私にとって恩師であり,日本の文化心理学の第一人者であるとともに,ヤーン・ヴァルシナー教授とともに世界の文化心理学を牽引し続けている力強い存在です。また,ちとせプレスの櫻井堂雄さんとは,何度も打ち合わせを重ねましたが,いつも親身に本書に対する提案をしてくださいました。このお二人が要所要所でしっかりと支えてくれたからこそ,本書は日の目を見ることができました。お二人にまず感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。続いて,分担執筆者として参加してくださった先生方に感謝申し上げます。先生方は時には編者の無茶な要求に応えつつ,なるべく読みものとして理解しやすいようにと工夫をこらして執筆をしてくださりました。みなさまに,心からのお礼を申し上げます。
今年は文化心理学においてTEA(複線径路等至性アプローチ)が誕生して20年目を迎える記念すべき年となりました。本書の初版ができた2019年にはじめてのTEAの国際的な集会が開催されTEAの世界的なネットワークの広がりが確認されました。さらに,近年では心理学の枠組みを超えて,保育学,応用言語学,社会学,社会福祉学,教育学,経営学などの学問分野でも広く用いられるようになりました。このような流れを受けて,2022年にはTEAと質的探究学会が発足し,学問分野を超えたネットワークが形成されはじめています。この20年のTEAの進展は文化心理学の展開という意味で大きなインパクトをもつものといえるでしょう。
今後はさらに文化心理学のネットワークやそれに基づく研究が広がり,理論的な展開も加速度を増すことが予想されます。本書は読者のみなさんを,私たちのネットワークにご招待するために書かれたものです。本書を端緒として文化心理学の考え方を社会に活かしてくれる人や,「さらに学びたい!」「自分で研究してみたい!」という意欲をもとに私たちのネットワークに参加し,文化心理学の新たな展開を生み出す原動力となってくれる人が出てくれば編者としてこの上ない幸せです。次の20年で文化心理学をもとに展開されるネットワークがどのような姿に変容していくのか,遠い未来の話と思いますが,いまからとても楽しみです。
関連記事の紹介
関連記事をサイナビ!に掲載しました(初版刊行時の記事です)。サトウタツヤ・尾見康博・木戸彩恵「心理学から見る文化/文化から見る心理学――鼎談 サトウタツヤ×尾見康博×木戸彩恵」