人の不幸を面白がる人はゴシップを首謀しやすい?
『パーソナリティ研究』内容紹介
Posted by Chitose Press | On 2024年01月22日 | In サイナビ!, パーソナリティ研究やるべき作業をサボって周りに迷惑をかけている人が叱られているのを見ると,喜ばしい気持ち(正義型シャーデンフロイデ)が喚起されることがあります。正義型シャーデンフロイデがモラル違反者に対する制裁行動を促すのかを,大学生を対象にした場面想定法を用いて検討した事前登録研究です。(編集部)
加藤伸弥(かとう・しんや):武蔵野大学大学院人間社会研究科。→ウェブサイト
不公正者に下された天罰を嘲る:正義型シャーデンフロイデ
たとえば,いつもやるべき仕事を怠っていて仲間に迷惑をかけている同僚が上司に叱責されているのを目撃した場面を思い浮かべてみてください。そのようなとき,多くの人は,心を弾ませてしまうに違いありません。なぜならば,その叱責(同僚にとっての不幸)が相応しい理由によってもたらされたものだからです。このように,不公正者に降りかかった不幸が妥当なものであるという認識に後続して喚起される喜ばしい気持ちは,正義型シャーデンフロイデと呼ばれます。
なぜ不公正な人の不幸は嬉しいのか?
「人の不幸を喜ぶ」ということだけをそのまま聞くと,どこか居心地の悪さを感じずにはいられないでしょう。しかし,上の例のように,対象となっている不幸が笑われるに“値する”理由があって生じたものであるならば心の在り方は一変してしまいます。「人の不幸を喜ぶ」ということに対して社会の側が悪意というレッテルを剥がすからです。そのときシャーデンフロイデは,「邪な喜び」ではなく,「正当化された快感」に変貌を遂げるのです。
では,なぜ不公正者の不幸ならば喜んでもよいのでしょうか。それはおそらく,集団への協力を蔑ろにして自分だけが得をしようとする人物は社会にとって迷惑な存在だからです。そうした人物を放置してしまうと社会秩序が乱れてしまう。そうであるからこそ,私たちの心は,フリーライダーが痛手を被っているのを知ると嬉しくなるようにデザインされているのかもしれません。
ゴシップの首謀とシャーデンフロイデ
もしそうならば,つまり,正義型シャーデンフロイデが協力や公正という社会システムを維持するための機能だとするならば,この感情は,モラル違反者に対する制裁行動を促すかもしれません。本研究では,制裁行動のひとつとしてゴシップに着目しました。
ゴシップに着目した理由は,シャーデンフロイデの性質にあります。シャーデンフロイデは,他者を不幸に“して”喜ぶのではなく,不幸に“なっているのを見て”喜ぶという受動的な感情です。そのため,シャーデンフロイデと関係する制裁行動は間接性の高いものだろうと予想しました。そして,間接性の高い制裁行動のひとつとしてゴシップを取り上げてみることにしたわけです。ゴシップは,不在の第三者に関する評価情報を非公式に交換する行為のことを言います。これは,自分が不公正者に直接手を下しているというよりも,集団に働きかけて不公正者の評判を落とそうとするものであり,間接的な制裁に分類されると考えました。しかも,そんなゴシップは多くの場合“楽しげ”に行われます。以上のことから,本研究では,正義型シャーデンフロイデを抱きやすい人物ほど,不公正者に関するゴシップを首謀しやすいだろうという仮説を検討することにしました。
実験方法と結果
実験は,162名の大学生を対象に場面想定法という手法を用いて行いました。実験参加者を二分し,一方には不公正な人物の情報が描かれたストーリー(みんなが嫌がる洗い物の仕事をいつもサボっているアルバイト仲間の情報)を,他方には不公正ではない人物の情報が描かれたストーリー(洗い物はしてくれるが,作業が終わるたびに過剰に消毒をするアルバイト仲間の情報)を読んでもらいました。そして,アルバイト後に仲の良い別のアルバイト仲間にその情報をどの程度共有すると思うかを問いました(これがゴシップを首謀する程度です)。そのうえで,正義型シャーデンフロイデの感じやすさに関するいくつかの質問(e.g., 非常識な振る舞いをして社会に迷惑をかけた人が成敗されているのを見るとスッキリする)に回答していただきました。
当初は,(a)不公正者のストーリーを読んだ群では,正義型シャーデンフロイデのポイントが高いほどゴシップを首謀する程度が高くなる,(b)不公正者ではない人物のストーリーを読んだ群では,正義型シャーデンフロイデの感じやすさとゴシップを首謀する程度は関連しない,ということを予測していました。しかし,実験の結果はこの予測に反し,いずれのストーリーの場合にも,正義型シャーデンフロイデはゴシップと関係しないというものでした。これは,仮説が支持されなかったことを意味します。
今後の展望
なぜ仮説が支持されなかったのか,考えられる理由として,ストーリー上で呈示していた情報共有の相手がアルバイト仲間であったことが挙げられます。ゴシップは,標的人物の評判を落とすことにつながる場合もあれば,ゴシップをしている当人の評判を落としてしまう場合もあります。社会的な関係を共にする仲間に「アイツはうわさ好きだ」と思われてしまうなら,長い目で見たときに痛手を被るのは不公正者ではなく自分になってしまうでしょう。正義型シャーデンフロイデの受け身的な側面は,ゴシップに付随する自身の評判低下の懸念を高く見積もらせ,情報共有することを躊躇させた可能性が考えられます。
もし,不公正情報を共有する相手が継続的な関係が想定される仲間でなかったとしたらどうなっていたでしょう。たとえば昨今では,迷惑動画や有名人の失言を非難するニュースがひとたび世に出ると,それに便乗した二次的な罰の参加者がインターネット上を駆け巡る様子が容易に観察されます。こうした制裁の暴走は,懲罰的な色味を帯びた情報に面白さを感じるからこそ生じているようにも見えます。匿名性の中に解き放たれてしまうと,ゴシップに付随する自身の評判低下の懸念より,人を叩く面白さが心を支配していくのかもしれません。今後は,情報共有の相手と実験参加者の社会的距離を操作した実験を行うなどして,多様な場面における正義型シャーデンフロイデの働きを調べていく必要があると考えています。
論文
加藤伸弥・泉明宏 (2024).「事前登録研究:不公正者についての情報共有に及ぼすシャーデンフロイデの効果」『パーソナリティ研究』32(3), 128-130.