他者に望ましい印象を与えようとすると,自分が実際に望ましいと思い込む?

『パーソナリティ研究』内容紹介

私たちは,他人に対して何らかの印象をもたせようと「自己呈示」を日常的に行っています。自己呈示をすると,自分に対する自分の見方も変わるのでしょうか? 外向性と内向性について,自己呈示とその内在化の様相が検討されました。(編集部)

上田皐介(うえだ・さすけ):名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程2年。→ウェブサイト

自己呈示とその内在化

人々は,他人からどのように見られるかについて強い関心をもっています。そして他人に何らかの印象をもたせようとする試みである「自己呈示」を日常的に人々は行います。他人に特定の印象をもたせようと自己呈示をすると,それに応じて自分の見方が変わる「自己呈示の内在化」という現象が知られています。たとえば,他人に外向的な印象を与えようとした後に,自分のことをより外向的に捉えるようになる,といったことです。

従来の内在化の説明と「自己欺瞞」による新たな説明

自己呈示の内在化が生じる理由として,これまでにいくつかの説が提案されています。たとえば,他人の行動からその人の性格を理解するのと同じように,人々は,自分の行動を観察することで,自分自身を理解するのだとされてきました。つまり,外向的な印象を与えようとした自分を観察することで,自分を外向的だと思うようになるということです。この説明が正しければ,どのような特性について自己呈示をした場合でも,その様子を自分で観察することになるので,自分の見方は変わると思われます。しかし,筆者が行った別の研究では,外向性の自己呈示の後には自分を外向的だと思うようになる一方で,内向性の自己呈示の後には自分を内向的だと思うようにならないことが示されました。

では,どうして外向性の自己呈示のみで内在化が生じたのでしょうか。人々には一般に,自分の望ましい面ばかりを思い出して,自分を実際以上に望ましく捉える傾向があること知られています。これは自己欺瞞と呼ばれています。外向性と内向性は,人々から望ましいと思われる程度が異なると考えられます。そのため,人々は望ましいであろう外向的な印象を与えようとするときだけ,外向的な面をたくさん思い出して都合よく自分の見方を変えている(=自己欺瞞をする)のかもしれません。自己欺瞞は他人と関わる前から生じることが知られています。これを踏まえると,実際に自己呈示をする必要はなく,自己呈示をすると思っているだけで,自分の見方が変わるのかもしれません。

そこで,まず外向性が内向性よりも望ましく捉えられているかを調べました。そして,他人に外向的な印象を与えるように求めると,自分を外向的だと思うようになる一方,内向的な印象を与えるように求めても,内向的だと思うようにはならないという仮説を立てて,実験を行いました。

実験方法と結果

事前調査として,本実験の7~10日前に,参加者に自分の外向性を評価してもらいました。また,外向性と内向性がどれくらい望ましいと思うかを尋ねました。本実験では,参加者に自己紹介文を書いてもらうように依頼し,自己紹介文を通して,半分の人には外向的,もう半分の人には内向的な印象を与えてもらうように伝えました(どちらの印象を与えるかはランダムに決定しました)。そして,自己紹介文の内容を3分間考えてもらった後,実際に自己紹介文を書いてもらう前に,再び自分の外向性を評価してもらいました(自己紹介文は書いてもらわずに終了しました)。その結果,①外向性は内向性よりも望ましく捉えられていました。②外向的な印象を与えるよう求められた場合,事前調査よりも自分を外向的だと思うようになりました。また,仮説とは異なり,③内向的な印象を与えるように求められた場合も,自分を内向的だと思うようになりました。ただし,外向的な印象を与えるよう求められた場合の方が,自分の見方が大きく変わっていました。

今回わかったことと今後の展開

これまで自分の見方が変わるには,実際に自己呈示をする必要があると思われていましたが,その内容を考えるだけで十分だとわかりました。また,外向的な印象を与えるよう求められた場合では,内向的な印象を与えるよう求められた場合よりも,自分の見方が大きく変わっていました。この結果は,自己欺瞞による説明と一致します。ただし,外向性と内向性は望ましさ以外の点でも異なるかもしれず,この結果だけで明確な結論は出せません。今後は,参加者に「内向性は○○な点でとても良い特性です」と書いた文章を読んでもらうなどして,内向性を望ましいと思う程度を一時的に変動させて,自分の見方の変化が大きくなるかを調べるなど,もう少し掘り下げて調べる必要があります。

透明な研究のために

ところで,仮説通りの結果が得られた研究ばかりが論文として世に出やすい「出版バイアス」と呼ばれる問題があります。こうした状況では研究不正が行われたり,仮説を立てていなかったものの偶然得られた結果を意図せずもともと考えていたかのように報告してしまうことがあります。心理学の仮説は「効果がある」というものがほとんどなので,これらは本来効果がないものを効果があるといってしまう「偽陽性」の可能性を高めます。こうした問題が分野全体で認識されるようになったのは,10年ほど前のことです。この流れを受け,今回の研究は「査読付き事前登録」で掲載されました。査読付き事前登録とは,実験の実施前に仮説や方法について査読を受けて,これに通過したら実験を行い,結果や考察を記載した原稿について再度査読を受けるというものです。実験実施前の査読を通過した場合,結果が仮説通りか否かにかかわらず原則論文が掲載されます。また,どこまでを実験実施前に考えていたのかについて示すことができます。これにより出版バイアスを減らし,透明性を高めることができます。こうした取り組みはますます広がっていくものと思われます。

論文

上田皐介・山形伸二 (2023).「事前登録研究:自己呈示の内在化に自己呈示は必要か――自己欺瞞による代替説明可能性の検討」『パーソナリティ研究』32(1), 39-41.