心理学が挑む偏見・差別問題(2)

社会問題への実証的アプローチ

4人の心理学者が,偏見や差別の問題に心理学が取り組む意義や,そこから見えてきた今後の課題を語ります。第2回は,偏見や差別への法による解決と社会心理学アプローチについて取り上げます。

連載第1回はこちら

偏見や差別への法による解決

唐沢:

障害者に対するケアは障害者差別解消法として法制化されました。障害があるために不利な状況があって差別されるということは解消されるはずではありますね。法はないよりはあった方がいいと思いますが,理念先行のようにも思います。法の精神を本当に実現しようと思ったら相当大変なことです。

Author_karasawaminoru唐沢 穣(からさわ・みのる):名古屋大学大学院情報学研究科教授。主著に,『責任と法意識の人間科学』(勁草書房,2018年,共編),The emergent nature of culturally meaningful categorization and language use: A Japanese-Italian comparison of age categoriesJournal of Cross-Cultural Psychology, 45, 431-451,2014年,共著),『社会と個人のダイナミクス』(展望 現代の社会心理学3,誠信書房,2011年,共編)など。

高:

ただ,「必要かつ合理的な配慮」を定めたということで,少なくとも行政側が指導できるようになったわけですから,けっこう大きいことかなと思います。

Author_takafumiaki高 史明(たか・ふみあき):神奈川大学非常勤講師,東京大学大学院情報学環特任講師。主著に,『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房,2017年,分担執筆),『レイシズムを解剖する――在日コリアンへの偏見とインターネット』(勁草書房,2015年),「在日コリアンに対する古典的/現代的レイシズムについての基礎的検討」(『社会心理学研究』28, 67-76,2013年,共著)など。

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唐沢:

障害分野は,制度で変えていくことでうまくいくかもしれないね。

高:

在日外国人に対するヘイトスピーチ解消法も問題点はいろいろありますが,罰則規定がなくても,決まりができたことで公立の施設を差別主義団体が使用したいといった場合に,法律に反するので認めないという判断はしやすくなります。

唐沢:

法律の根拠をもって,拒否できるわけですね。

高:

また,ヘイトスピーチ解消法はそれ自体で刑罰がつくようなものではないのですが,マイノリティが民事裁判に訴えた際に,理念法に反しているということが裁判に反映されるケースが出てきています。限界はあるにせよ有益なのかなとは思います。

唐沢:

それが1つの突破口になるのだと思います。ただし,法でコントロールすれば社会問題も解決するというのは,かなりアメリカ的考え方だなと思います。そもそもなぜ偏見をもってはいけないかという根本にあるのは,各個人が人権をもっていて,それを犯してはいけないという発想で,それを守るのは法しかないという考えだと思います。すべてのものが法に従属するという了解があれば,それで解決する面はあります。アメリカの人になぜ差別をしてはいけないかと聞くと,「法が言っているのだから,そうでしょう」という感覚です。理屈にならない。それを日本人がどこまでできるかということは若干疑問です。私の理解では,日本人がなぜ差別や偏見がいけないのかと考えるとき,「だってかわいそうだから」という感覚ではないでしょうか。道徳教育にしても,「被害を受けた当事者の気持ちになってごらん」と言われます。

北村:

ケアの原理であり,フェアネスの原理ではないわけですね。

Author_kitamurahideya北村英哉(きたむら・ひでや):東洋大学社会学部教授。主著に,『社会心理学概論』(ナカニシヤ出版,2016年,共編),「社会的プライミング研究の歴史と現況」(『認知科学』20, 293-306,2013年),『進化と感情から解き明かす社会心理学』(有斐閣,2012年,共著)など。

唐沢:

そのレベルで差別や偏見がいけないことだとは,みんなわかっていて,「それをなくすにはどうしたらよいのか」と考えて,「みんな一緒に活動して友達になったらよくなるでしょう」と思うわけです。直観的に「悪いな」と思う根拠が,我々の社会に独特な形で存在しているのかなと思います。もちろん,解決のためには使えるものは何でも使えばいいと思いますので,法律的なもので実際の行動をしづらくするやり方もあると思いますが,根っこから「これは悪いな」と思う根拠はまた別に求めないといけないように思います。それが何なのかは,私にもわからないですが,複数あるようにも思います。

北村:

併用していく必要があると思いますが,そうした素朴な感情のレベルが難しいですね。感情レベルとして,フェアネスを実感して追い求めるべきものだという直観的な道徳感情があるのかどうか。

唐沢:

フェアネスを教育で身につけられるとは思いますが,それだけではないでしょうね。ケアの原理だけを基準にしていたら,「かわいそうだとは思わない」という意見をもつ人が必ずいて,そのせいで解決できないのではないでしょうか。


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