テスト理論から見た大学入試改革論(4)

しかし,この方法には3つの問題点があります。

1つは,それぞれの試験の成績とCEFRの段階との対応づけが,客観的に決まるものではなく,最終的にはそれぞれの試験団体の判断によるということです(5)。したがって,一度示された対応づけが,その後の判断によって大きく変化することもあります。

表2 TOFLE iBTとCEFRとの対応づけの変化

table4-2

表2はその一例ですが,TOEFL iBTの成績とCEFRの段階との対応づけが,2008年と2014年というわずか6年間の間でかなり変更されていることがわかります(6)。たとえば,先ほど述べたB2レベルに必要な成績が,2008年には87点であったものが,2014年には72点で良いというふうに変わっています。

このように,それぞれの試験の成績とCEFRの段階との対応づけには曖昧さや不安定さがあるので,それをもとに,異なる試験の成績を互いに比較するのは,大学入学のための共通テストという重要さを考えると,問題があるように思います。

もう1つの問題は,仮に各試験の成績がCEFRの段階にしっかりと対応づけられたとしても残る問題です。

表3 文科省の英語力調査結果

table4-3

表3は,2015年に文部科学省が国公立約500校,約9万人の高校3年生を対象に英語力の調査を行ったうちの,公立高校の生徒の結果です。CEFRの段階別にそこに何%の生徒が含まれるかという割合を示しています(7)。これを見ると,読む・聞く・話す・書くのどの技能においても,CEFRのB1レベル以上は,3%未満であること,言い換えれば,下の2つの段階,A1とA2に97%以上が入ってしまうことがわかります。このように2つの段階にほとんどの生徒が入ってしまうような段階分けでは個人差を十分に見ることができず,とても共通テストとして選抜の目的に使うことはできません。

さらに,いまの問題と関連して,第2回,第3回で述べた段階評価の問題があります。たとえば同じA2レベルでも,その下のA1に近いレベルと上のB1に近いレベルでは相当な個人差がありますが,この評価法では同じ扱いになります。一方,たとえばA2とB1の境界では,誤差変動くらいでも段階が変化し,大きな影響をもってしまいます。

この最後の問題については,CEFRの6段階よりも細かい段階評価をする案も出ていますが,上記の問題点や素点がもっている情報量が失われるなどの問題点は,本質的には改善されません。したがって,もし民間の試験を活用するとしたら,素点や標準得点を使用するほうが良いということになりますが,その場合,異なる試験間の成績比較は相変わらず難しい問題として残ります(8)

文部科学省は,できるだけ多くの民間試験を採用するように呼び掛けていますが,本来は,試験の質や内容を評価して,大学の入学者選抜の目的に最もふさわしいもの1つを選ぶのが筋でしょう。そして,多面的・総合的に評価した結果,もしもどの民間試験よりも,現在の大学入試センター試験の後継となる大学入学共通テストの英語を採用するのがより良いと判断されることがあれば,あるいはそのように判断する大学があれば,それを採用するのも当然,あってよいことでしょう。


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