テスト理論から見た大学入試改革論(3)
Posted by Chitose Press | On 2017年10月20日 | In サイナビ!, 連載大学入試改革論は,テスト理論の観点からはどう評価されるのか,テスト理論を含む心理統計学が専門で,文部科学省の「高大接続システム改革会議」の委員も務められた東京大学の南風原朝和教授に寄稿していただきました。第3回は前回に引き続き段階評価の問題点と,複数回受験に関連して項目反応理論を取り上げます。
南風原朝和(はえばら・ともかず):東京大学高大接続研究開発センター長/大学院教育学研究科教授。主著に『心理統計学の基礎――統合的理解のために』(有斐閣,2002年),『続・心理統計学の基礎――統合的理解を広げ深める』(有斐閣,2014年),『量的研究法』(臨床心理学をまなぶ7,東京大学出版会,2011年)など。
さらに段階評価について
テストの結果をおおくくりの段階評価とすることについては,前回述べた,テストの情報量が減少すること以外に以下のような問題点があります。
まず,いくつの段階に分けるか,またどこを段階の境界とするかという「段階への分け方」が恣意的にならざるをえないことです。資格認定や課程修了認定での「基準設定」(standard setting)であれば,段階数は合・否の2段階に決まりますが,どこを分割点(cut-off score)とするかは完全に客観的に決めることはできず,最終的には実施機関による判断となります(1)。
入学者選抜のための共通テストの場合は,段階数からして特に根拠のある値があるわけではなく,段階間の境界に至ってはなおさらそうです。そのような根拠薄弱な段階評価によって,受験者がある大学への応募条件を満たしたり満たさなかったりするのは,不合理でしょう。
次に,段階評価がおおくくりのものであればあるほど,それぞれの段階内には大きな個人差があるのにそれが無視され,その一方,段階の境界付近では,実際にはわずかな能力差であるにもかかわらず異なる段階に振り分けられて,能力差が誇張されるという問題があります。その結果,ある段階の中の下位に位置する者は,かなりの能力向上があっても同じ段階にとどまる可能性が高くなり,努力が反映されにくくなります。それでは学習意欲も高まらないでしょう。その一方で,段階の境界付近では,誤差変動だけでも段階が変化し,決定的な影響をもってしまいます。
1点刻みの1点差で合否が決まることに対しては批判もありますが,段階評価でも段階の境界付近では同じことです。むしろ,1点刻みの1点には実質的な意味がないことが広く了解されているのに対し,同様に実質的な意味のない境界付近のわずかな差が,異なる段階となることによって実質的に意味があるかのように誤解されることのほうが問題でしょう。
段階評価には,さらに,選抜における柔軟で多様な活用を阻害する側面があります。たとえば,東京大学の推薦入試では,ほとんどの学部で,大学入試センター試験で「概ね8割以上の得点」を求めており,一部の学部学科ではその基準点を「780点程度」としています(2)。このように各大学あるいは各学部が柔軟な基準設定ができるのは,1点刻みで成績が提供されているからです。また,テストの得点に重みをつけて,他の多様な情報と総合することも,段階評価では難しくなります。