テスト理論から見た大学入試改革論(2)

この条件付記述式によって,採点者間の採点のブレが実際に解消されるかどうかは,これから計画されているプレテストによる検証を待つところですが,仮にそれが実現するとしたら,その記述式問題は,限りなく客観式問題に近いものであることになります。実際,これまで提出されたモデル問題例には,本文中から特定の語句を抜き書きする問題などがあり,たしかにそういう客観式に近い問題であれば採点のブレは少なくなると考えられます。

しかし,そのような問題で,先に引用した記述式問題の狙い,すなわち「多様な文章とともに,図表などを含めて,複数の情報を統合し構造化して考えをまとめたり,その過程や結果について,相手が正確に理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力等を評価する」ことが可能でしょうか。これは,測りたい能力が実際にどれだけ測れるかという妥当性についての疑問です。

このように,記述式問題については,採点の信頼性を高めようとすると,その内容や形式が制限され,その結果として,より重要な妥当性についての疑義が生じてくる,というジレンマがあります。大規模試験において,採点のための莫大なコストをかけて,この種の記述式問題を導入する必要があるかについて,私は疑問に思っているところです。

解答形式に関する思い込み

入試改革に関する一連の議論の中で私が強く感じたのは,「記述式であれば深い思考や表現力が測れるが,客観式(具体的にはマークシート式)ではそれは無理」という考えが,広く,かつ根強くもたれていることです。実際には,記述式問題で深い思考や表現力を測ることができるためには,問題文が適切であるだけでなく,採点基準およびそれに基づく実際の採点が適切であることが必要です。記述式であれば良いということではけっしてありません。

一方,マークシート式問題でも,工夫次第で,深い思考や表現力を測ることが可能です。たとえば,アメリカの大学が採用している共通テストであるSATには,“Writing and Language Test”という下位テストがあります(4)。これは,マークシート式問題で文章推敲力を評価し,それによって文章表現力を測るテストであり,注目に値するテストです。また,現在の大学入試センター試験のマークシート式問題にも,深い思考や表現力を問う良問が多く含まれていると私は評価しています。


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