テスト理論から見た大学入試改革論(2)

大学入試改革論は,テスト理論の観点からはどう評価されるのか,テスト理論を含む心理統計学が専門で,文部科学省の「高大接続システム改革会議」の委員も務められた東京大学の南風原朝和教授に寄稿していただきました。第2回は記述式問題と信頼性・妥当性,そして段階評価と情報量について取り上げます。

連載第1回はこちら

Author_haebaratomokazu南風原朝和(はえばら・ともかず):東京大学高大接続研究開発センター長/大学院教育学研究科教授。主著に『心理統計学の基礎――統合的理解のために』(有斐閣,2002年),『続・心理統計学の基礎――統合的理解を広げ深める』(有斐閣,2014年),『量的研究法』(臨床心理学をまなぶ7,東京大学出版会,2011年)など。

記述式問題と妥当性・信頼性

第1回で書いたように,新しい「大学入学共通テスト」では,国語と数学に数問程度,記述式問題が導入される予定です。

このうち国語の記述式問題では,「多様な文章とともに,図表などを含めて,複数の情報を統合し構造化して考えをまとめたり,その過程や結果について,相手が正確に理解できるよう根拠に基づいて論述したりする思考力・判断力・表現力等を評価する」とされています(1)

現在,大学入試センター試験の国語の受験者数は50万人を超えており,その人数が記述式問題に解答するとしたら,答案の採点は膨大な作業になります。その大量の記述式の答案を限られた期間内に正確に採点することができるかどうかが心配されていますが,特に採点の信頼性の観点からは,「採点者が異なっても,一貫した採点ができるか」ということが問われます。つまり,たまたまある採点者にあたったから得点が高くなったとか低くなったというような偶然誤差が十分に抑えられるかという問題です。

受験者数が限られている個別大学の試験では,たとえば1つの問題については,全受験者の答案を1人の採点者が通して採点するというような方法で対応したりしているようです。このようにすれば,どの答案がどの採点者によって採点されたかという偶然性による得点の変動は抑えることができ,その意味での信頼性は確保できます。ただし,誰がその全体を採点する人になるのかによって結果が変わる可能性があるという意味では,問題が残ります。その問題を解消するには,複数の採点者が全答案を採点し,結果が一致しない場合は合議によって得点を決めるという,より慎重な方法がとられます。

受験者数が50万人を超えるような試験ではこのような対応はできません。そのため,「大学入学共通テスト」では,採点者間での採点結果の変動を抑えるために,たとえば,「全体を二文でまとめ,一文目には……を,二文目には……」というように,設問において一定の条件を設定して解答させる「条件付記述式」の問題が採用される予定です(2)。そして,採点においては,正答の条件(形式面,内容面)への適合性を判定するとされています(3)。そうすることで,誰が採点しても結果が同じになるように,できるだけそれに近くなるように,ということを狙っているわけです。


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