社会は心の健康にどう取り組むべきか?(3)
『心理療法がひらく未来』監訳者あとがきより
Posted by Chitose Press | On 2017年08月17日 | In サイナビ!, 連載7・3 日本でもエビデンスが重視されつつある
日本の厚生労働省も、「エビデンスにもとづく健康政策」の考え方をすでに取り入れている。エビデンスにもとづいて健康保険の支払額が決められるようになり、前述のように認知行動療法が健康保険の診療として認められた。
また、日本の臨床心理士の間でも、最近では心理療法の治療効果への関心が高まってきた。これまでの日本では事例研究のレベルにとどまっていたが、それでは患者に対して害を与えていないという保証はない。そこで、筆者らは、2003年から『叢書 実証にもとづく臨床心理学』(全7巻、東京大学出版会)を刊行して、心理療法におけるエビデンスの重要性を訴えてきた。最近では、日本認知・行動療法学会や日本認知療法・認知行動療法学会などで、対照試験やRCTを用いた研究が増え、学会賞を受賞するような研究はほとんどがこうした方法を用いたものになっているのは心強いことである。
7・4 日本における認知行動療法のエビデンス
心理療法の効果研究もたくさん発表されるようになった。ここでは、日本の認知行動療法には効果があるのかを調べた総説論文(佐藤寛・丹野義彦「日本における心理士によるうつ病に対する認知行動療法の系統的レビュー」『行動療法研究』38巻、157-167、2012年)を紹介しよう。この研究は、日本で2008年以降におこなわれた治療効果研究の論文12本についてメタ分析をおこなったものである。まず、12本の論文において、認知行動療法をおこなった職種を調べたところ、心理士がおこなった研究(91.7%)がもっとも多く、ついで医師(41.7%)、看護師(33.3%)、その他(16.7%、作業療法士、精神保健福祉士、保健師)の順であった。日本のエビデンスの多くが心理士によってつくられてきたわけである。次に、治療前後の効果量としてコーエンのdという指標を計算した。抑うつ症状の自己評定尺度をもとに効果量を算出すると、平均はd=0.77であった。この値は「中程度から大きい効果」と解釈される。また、抑うつ症状の他者評定尺度をもとに効果量を算出すると、平均はd=1.35であった。この値は「大きい効果」と解釈される。このように、日本においても、認知行動療法の治療効果は高いことが明らかとなった。よく「認知療法は、西洋で生まれたので、西洋人には効果があるが、日本人には効果がない」という人がいるが、これは根拠のない俗説にすぎないことがわかった。
(→第4回に続く)
社会は心の健康にどう取り組むべきか。精神疾患に苦しむあらゆる人が適切な心理療法を受けることができれば,人生や社会はもっとよくなり,国の財政も改善する。心理療法アクセス改善政策(IAPT)でタッグを組んだ経済学者と臨床心理学者が,イギリス全土で巻き起こった幸福改革の全貌を明らかにする。