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文化心理学

理論・各論・方法論

木戸彩恵・サトウタツヤ 編

発行日: 2019年3月31日

体裁: A5判並製304頁

ISBN: 978-4-908736-13-1

定価: 2500円+税

→本書はより新しい版が刊行されています

内容紹介

人に寄り添う文化と人の関係性を描く

文化を記号として捉え,文化との関わりの中で創出される人の心理を探究する文化心理学。その理論や歴史を丁寧に解説し,ポップサイコロジー,パーソナリティ,学校・教育,自己,法,移行に関する12のトピックについて,文化心理学の見方・考え方を各論として紹介。方法論もカバーした決定版。

目次

第1部 理論

第1章 文化心理学の基本的射程 ●木戸彩恵

第2章 文化心理学の歴史 ●サトウタツヤ

第3章 記号という考え方――記号と文化心理学 その1 ●サトウタツヤ

第4章 時間と記号――記号と文化心理学 その2 ●サトウタツヤ

第2部 各論

第1章 文化心理学×ポップサイコロジー

①化粧から見る文化/文化から見る化粧 ●木戸彩恵

②恋愛から見る文化/文化から見る恋愛 ●木戸彩恵

第2章 文化心理学×パーソナリティ

①文化から見る名前/名前から見る文化 ●木戸彩恵

②血液型から見る文化/文化から見る血液型 ●上村晃弘

第3章 文化心理学×学校・教育

①ゼミから見る文化/文化から見るゼミ ●山田嘉徳

②不登校から見る文化/文化から見る不登校 ●神崎真実

第4章 文化心理学×自己

①ジェンダーから見る文化/文化から見るジェンダー ●滑田明暢

②キャリアから見る文化/文化から見るキャリア ●番田清美

第5章 文化心理学×法

①裁きから見る文化/文化から見る裁き ●中田友貴

②えん罪から見る文化/文化から見るえん罪 ●山田早紀

第6章 文化心理学×移行

①お小遣いから見る文化/文化から見るお小遣い ●サトウタツヤ

②震災から見る文化/文化から見る震災 ●日高友郎

第3部 方法論

第1章 記述法とまとめ方

①マイクロ・エスノグラフィ――私たちが生きる世界を訪ね直す方法 ●木下寛子

②ナラティブ・アプローチ ●土元哲平

③KJ法 ●川本静香

④複線径路・等至性アプローチ(TEA) ●福田茉莉

⑤テキストマイニング ●上村晃弘

⑥アンケート ●春日秀朗

第2章 研究倫理 ●渡邉卓也

編者

木戸彩恵(きど・あやえ)

関西大学文学部准教授

主要著作:『化粧を語る・化粧で語る―社会・文化的文脈と個人の関係性』(ナカニシヤ出版,2015年),『社会と向き合う心理学』(新曜社,2012年,共編)

サトウタツヤ

立命館大学総合心理学部教授

主要著作:Making of the future: The Trajectory Equifinality Approach in cultural psychology(Information Age Publishing,2016年,共編),『心理学の名著30』(筑摩書房,2015年)

はしがき

本書は,文化心理学をはじめて学びたい,研究してみたいと思う人のための大学の教科書,文化心理学の入門書として企画したものです。

本書では第1部に理論を取り上げました。文化と共に生きる人を理解するためには,特定の社会・文化的文脈を生き,そこで何かに成る過程(becoming)にある人とその人をガイドする記号(sign)を理解する心理学の理論が必要と考えたからです。そして,第2部では各論としてより広いトピックを扱いました。文化と人の関係はあらゆる人の営みに潜んでいます。文化心理学では研究の焦点の当て方により「それって心理学ですか?」と心理学を少し知っている人なら不思議に思うようなトピックも扱うことができます。本書でお示ししたトピックは文化心理学の一部にすぎませんが,複雑な社会・文化的文脈が絡み合うなかで起こる現象をできるだけ広く,多く扱うよう試みました。第3部では,実際に調査や研究をしてみようとする読者のために,文化心理学でよく使われる方法論を扱いました。本書には文化心理学を理解し実践するために必要な知識をコンパクトにまとめてあるのです。

本書を執筆しているなかで,私自身も「母に成る」経験をしているところです。母に成る経験は,私にとって新たな記号の発生,価値観の変容,職場からの一時的な離脱,そして新たな家族の成員との交渉など,私自身や社会との対話を必要とする過程であり,まさにライフ(生命,生活,人生)を大きく変える裂け目となる出来事(rupture)といえそうです。しかし,多くの場合に発達の過程として「母に成る」という経験が重視されることはそう多くなく,「母である」ことを前提とする役割期待がもたれ,母親らしく献身的な振る舞いをすることが求められているように感じます。母に成る過程は,文化心理学でも関心を向けられるトピックであり,Making meaning, making motherhood(Cabell et al., 2015)という著書があります。その本では,ブラジルの研究者たちによって「母としての私」の経験が多層的に検討されています。私自身がこうした著書や恩師であるやまだようこ先生の名著『ことばの前のことば―うたうコミュニケーション』(やまだようこ,2010)などを読み返したいと思うようになったことは,それまでにあまり意識していなかったさまざまな事象が記号として立ち現れてきたからであり,そのための文化的リソースを得たいと私自身が感じるようになったからに違いありません。

私という個人が母に成る経験は,本書の出版スケジュールを1年延ばしてしまう原因になり関係者のみなさまにさまざまな迷惑をかけることになりましたが,一方で私自身にとっては,本書の出版こそが,社会と「研究者としての私」をつなぎとめておいてくれる記号にもなりました。産前産後休業・育児休業の間にも研究に向き合うきっかけをいただけたことにはとても感謝しております。

本書の出版に関しては,3年ほど前に共編者・サトウタツヤ先生が企画を提案してくださいました。サトウタツヤ先生は,私にとって恩師であり,日本の文化心理学の第一人者であるとともに,ヤーン・ヴァルシナー教授とともに世界の文化心理学を牽引し続けている力強い存在です。また,ちとせプレスの櫻井堂雄さんとは,何度も打ち合わせを重ねましたが,いつも親身に本書に対する提案をしてくださいました。このお二人が要所要所でしっかりと支えてくれたからこそ,本書は日の目を見ることができました。お二人にまず感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。続いて,分担執筆者として参加してくださった先生方に感謝申し上げます。先生方は時には編者の無茶な要求に応えつつ,なるべく読みものとして理解しやすいようにと工夫をこらして執筆をしてくださりました。比較的,若い世代の先生方にお願いしたこともあり,とても柔軟に応じてくださり,さらには,私の母に成る過程におつき合いいただき出版の遅れにも快く対処していただきました。みなさまに,心からのお礼を申し上げます。

2019年の3月にははじめてのTEA(複線径路・等至性アプローチ)国際学会が立命館大学大阪いばらきキャンパスで開催されます(現時点はまだ2月です。ですので未来の話ですが,きっと成功裡に終わることでしょう)。この国際学会の開催は,この十数年の間におもに日本で文化心理学の理論枠組みとして生成されたTEAが世界的なネットワークの中でインパクトをもつようになった証といえるでしょう。

今後さらに日本の文化心理学のネットワークやそれに基づく研究が広がっていくことでしょう。本書の読者のみなさんの中にも私たちのネットワークに参加し,文化心理学の新たな展開を生み出す原動力となってくれる人がいることを期待しています。次の10年,20年後の文化心理学の発展が,いまからとても楽しみです。

2019年2月

編者を代表して 木戸彩恵

文献

Cabell, K. R., Marsico, G., Cornejo, C., & Valsiner, J. (2015). Making meaning, making motherhood. Information Age Publishing.

やまだようこ (2000).『ことばの前のことば―うたうコミュニケーション』新曜社

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