書店でのトークイベントを開催しました

『女性リーダーはなぜ少ないのか?――リーダーシップとジェンダー』刊行記念

『女性リーダーはなぜ少ないのか?――リーダーシップとジェンダー』の刊行を記念して、著者の坂田桐子・広島大学教授によるトークイベントをマルジナリア書店(東京・分倍河原)にて開催しました。(編集部)

トークイベントのお誘いを受ける

新刊が出る1,2カ月前くらいのタイミングで全国の書店に,「もうすぐこういう本が出ますよ」という案内を出している。書店にはそうした案内が数多くの出版社から大量に届くのだが,その中から書店員さんはこの本は自分の書店でどのくらい売れそうかな,という検討をして,3冊入荷しようとか,1冊でいいかなとか,この本はやめておこう,と判断するわけだ。

6月上旬に,広島大学の坂田桐子先生にご執筆いただいた『女性リーダーはなぜ少ないのか?――リーダーシップとジェンダー』が8月に出ますよ,という案内を出したところ,昔からの知り合いであるマルジナリア書店の小林さんから,注文をいただくとともに「著者のトークイベントをしてみませんか」というお誘いを受けた。

書店ではサイン会やイベントが開催されて,著者や新刊に関心のある人に来ていただき,書籍の販売促進につなげるのだが,じつは私はそうした「イベント」をこれまでに一度もしたことがなかった。ジャンル的にアカデミックな内容を扱っていることもあるが,なにより自分に書店や書店員さんとのつながりがあまりないからと思われる。

もし開催したとして,どれくらい人を呼べるのか私も見当がつかなかったのだが,「女性リーダー」というテーマに関心をもつ人は多くいるだろうし,販促に力を入れたいと思っていたところにお声がけいただいたので,やってみたいなと思い,著者の坂田先生に意向を聞いてみた。坂田先生も書店でのトークイベントをしたことがないけれど,予定が合えばやってみたい,ということであった。予定をうかがうと,8月末に学会参加のために東京に来られる予定がおありとのこと。前日の8月30日は金曜日だし,ちょうどよいかもしれない。

もうおひとりお呼びして,対談的に進めたいというのが小林さんの当初の案だった。それで候補の方にご都合をうかがっていただいたのだが,日程が限定されていたために,もうおひとりを決めるのに難航し,結局,小林さんが聞き手を務めていただけることになった。小林さんは書店を経営されながら,出版者/編集者,作家としての顔をもたれていて,ジェンダー問題についても長らく関心を寄せられていた。坂田先生から話をうまく引き出していただけるに違いない。

その後,小林さんが書店のサイトなどにイベントの告知を出されたタイミングで,ちとせプレスでもバナーを作ったり,SNSで広報に努めたりした。書店に来場しての参加だけでなく,オンラインでの視聴にも対応する,いわゆるハイブリットでの開催の予定だったので,遠方の方にもぜひ参加していただきたかった。自社のウェブサイト上の書籍紹介ページにもバナーを貼った。

台風が日本を横断!

ところが,開催の1週間ほど前くらいから,台風10号が日本にやってきそう,という予報が出てきた。じつは発生当初は,「通り過ぎたり,それたりするのでは」と,あまり心配していなかったのだが,北西に移動した後,日本を横断するように北東に向かう,という予想外の進路変更があり,さらにその速度が非常にゆっくりであったために,8月30日から9月初めは,九州から東北まで,日本中が台風の影響を強く受けそうな情勢であった。

結局,予定されていた学会自体がオンラインのみの開催となることが水曜日の夜に発表された。全国から東京に移動される方も多いので,適切な判断だったように思う。もし学会が対面で開催されていたとしても,金曜日は東海道新幹線も運休しており,東京に来ていただくのは無理だった(ちなみに,学会は急遽オンラインでの開催へと切り替わったことで運営に携われた方々は非常に多変な苦労をされたと思うが,滞りなく開催された)。

オンラインでのトークイベントの開催

ということで,トークイベントもオンラインのみでの開催となった。コロナが流行する前であればオンライン開催も難しかっただろうが,いまはほとんどの人がオンラインで話をすることや視聴することに慣れていて,その点での障壁はほとんどなくなったと思う。

19時からの開催だったのだが少し前にZoomに参加し,顔合わせ。小林さんは書店の営業もしながらなので忙しそう。19時になったところで視聴される方もちらほら参加されはじめたのでトークイベントは開始された。話によると,同時視聴ではなく後で視聴される方もおられるとのことだった。

『女性リーダーはなぜ少ないのか?――リーダーシップとジェンダー』で扱っている内容について簡単に触れておきたい。世界的に指導的地位に立つ女性は男性に比べて少ないのだが,日本ではとくにその傾向が強く,そのことを社会心理学におけるリーダーシップとジェンダーに関する研究から「リーダーを目指す女性」が直面する障壁を分析し,女性がリーダーとして活躍する組織や社会をどうすれば実現できるのかを探るものである。

小林さんからは書籍の内容に基づいた質問や感想のほか,最近のドラマや小説,さらに哲学やジェンダーに関わる他の学問領域からのエピソードの紹介や問いかけがなされて,坂田先生がそれに応答する,という形で,非常に面白く展開した。

企画のきっかけ

途中から私も編集者として,「どうしてこの企画をやろうと思ったのか?」とか,「心理学ってどんな学問なの?」といったことを尋ねられて,それにお答えした。

前者の「なぜこの企画をやろうと思ったのか」については,じつは明確な「きっかけ」がある。東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長を務めていた元首相の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」発言である。

その委員会に参加している人はいずれも,国を挙げたイベントの理事会に参加するだけの卓越した能力があり,リーダーシップを発揮している,さまざまな領域における「リーダー」である。そうした「女性リーダー」に対して,首相を務めた人がそのような感想をもつのか…と驚いたし,落胆した。

ジェンダーギャップ指数がニュースを賑わすことも多く,経済分野や政治分野での順位の低さは認識していた。こうした状況について,リーダーシップとジェンダーの問題を心理学の観点からしっかりと論じる書籍を作りたい,という思いが自分の中に強く生まれた瞬間だった。

自分の中には「女性が力を発揮できないから,日本企業の生産性が落ちているのでは」「女性リーダーが増えれば企業や社会が大きく変わるのでは」という思いもあった。さっそくいくつか下調べをして,それまではとくに面識もなかった坂田先生に企画を携えてアプローチした,という次第である。

後者の「心理学ってどんな学問なの?」に関しては,自分も編集者として20年以上,心理学と接しているのだが,「普通」の人の考える「心理学」イメージについてあらためて考える機会になった。たしかに,書店での心理学の棚には宗教やスピリチュアルに関する本,そして「●●効果」みたいなトピックを並べた「心理学本」が多い。それらと,実際に心理学で研究されている内容とはかなり乖離がある。大学に入学する学生も「えっ,心理学ってこんな学問だったの?」「なんで統計が必要なの?」と驚くこともけっこうあるそうだ。そのあたりは,心理学者の方々も啓発に努めているし,心理学の書籍に関する出版社も努力を続けているところだが,なかなか浸透しない。実際の心理学は幅が広くひと言でまとめるのは難しい面はあるが,実証ベースの科学的なアプローチをしているものが多いといえる。臨床や実践に関する研究もあるし,質的研究も盛んではあるのだが,それでも「現象の確かさを確認する」志向性は強いと思う。こうした分野の特性を書店や一般の方々に知っていただく努力は続けていく必要はあるなと思った。

イベントを終えて

坂田先生と小林さんに,書籍の特徴をわかりやすく表現していただき,また内容をより広く展開していただき,非常に有意義な時間を過ごすことかできた。対面ではなかったために参加されている方の表情を見たり,感想を伺ったりすることができなかったのは残念だったが,オンラインで視聴された方がトークイベントから何らかのメッセージをくみ取っていただけたなら,と思う。これからも機会があれば,ぜひ書店でのイベント等をやってみたい。

リーダーを目指す女性が直面する障壁とは。リーダーシップとジェンダーに関する最新の研究知見から,女性リーダーが少ない現状と関連する心理的・組織的要因を解説・分析し,女性がリーダーとして活躍する組織や社会を作るための道筋を描く。