テスト理論から見た大学入試改革論(3)
Posted by Chitose Press | On 2017年10月20日 | In サイナビ!, 連載複数回受験について
共通テストの段階評価の提案は,ある段階以上を大学への応募条件とするなど,いわば資格試験的なテスト利用を想定してなされたものでした。そして,一般的な資格試験は合格できるまで何度でも受験できるのと同様に,共通テストも「一発勝負」ではなく,複数回受験を可能にするという提案がなされていました。
複数回受験は,入学者選抜の目的に使える情報が増えることになりますから,潜在的には選抜の信頼性の向上に資する可能性があります。ただし,複数回受験が可能になるためには,どの回に受験しても,その結果が互いに比較可能であることが必要です。そのためには,すべての回の結果が,共通の尺度上に位置づけられるか,あるいは換算表のようなものが用意されることが求められます。
一連の議論の中では,それを可能にする方法として,項目反応理論(Item Response Theory, 略してIRT)を適用することが話題になっていました。ここで簡単に,IRTの概要と,それを用いて能力の推定をすることで,異なるテストの結果が共通の尺度上で表現される仕組みについて説明しましょう。
IRTの仕組み
IRTの基本は,テストの個々の項目に正答する確率が,能力レベルの上昇に伴ってどのように高くなっていくかを表す項目特性曲線です。図1には,難度の低い(易しい)項目1から難度の高い(難しい)項目3まで3つの項目の特性曲線が例示されています。項目1の難度が低いことは,どの能力レベルで見ても,他の項目より正答確率が高いことでわかります。テストに含まれる項目すべてについてこの関数を合計すると,能力レベルの関数としてテスト得点(正答数)の期待値を表すテスト特性曲線となります(第1回参照)。
いま仮に,その3つの項目でテストが構成されているとします。すると,項目それぞれに正・誤の可能性がありますから,全体では23=8通りの正誤パターンがあります。表1に示したのは,そのうちの3つのパターンです。