意外といける! 学習心理学(3)

学習理論って難しいんじゃないですか?

古典的条件づけについての事実は他にもたくさんあり、たとえば強い条件刺激や無条件刺激を使えば条件反応の獲得が早くなります。刺激の強さが重要な意味をもつので、条件刺激と無条件刺激の強さを数字で表現しましょう。

事実2:条件刺激と無条件刺激が強いと学習が早く進む

条件刺激と無条件刺激を対提示したらどれくらい無条件刺激が来るかどうかの予期が変化するのか、条件刺激と無条件刺激の強さを使って表現してみます。簡単なアイデアはこの2つの足し算で学習量を決めるというものですが、これだとどちらかがゼロでも学習が起こることになってしまいます。そこで、かけ算にしてみましょう。どちらかがゼロだと無条件刺激が来るかどうかの予期の変化量もゼロになって学習が進みません。強い条件刺激や無条件刺激を使うとそれだけ学習される量が大きくなりますので、そのことも表現できています。

理論1:ある試行での無条件刺激に対する予期の変化量=条件刺激の強さ×無条件刺激の強さ

「そんな単純でいいの」と思われるかもしれませんが、これも立派な理論です。

では、最初に掲げた条件刺激と無条件刺激を対提示すれば、だんだんと条件反応が強くなってどこかで横ばいになるという状況は説明できるでしょうか。試してみましょう。無条件刺激はエサや電気ショックなどの重要な刺激であり、条件刺激よりも強いと考えられますので、ここでは仮に条件刺激の強さを0.2、無条件刺激の強さを100として計算してグラフを書いてみます。もちろん条件刺激と無条件刺激は異なるものですので、同じ物差しで強さが測れるわけではありませんが、条件刺激についても「音か光か」といった情報は抽象して捨ててしまっていますので、ここでは理論上の数として話を進めます。結果が図2です。残念ながら、条件刺激と無条件刺激を対提示すればするほど、どんどん学習が進んで横ばいになってくれません。条件刺激と無条件刺激の対提示をすればするほど、学習の進み具合を遅くしなければいけないようです。

fig3-2

図2 理論1に基づいた、対提示回数と無条件刺激の予測の強さの関係。対提示回数が増えるほど、予測が右肩上がりに大きくなっていく。

改善すべき点:条件刺激と無条件刺激の対提示が増えると学習の進み具合を遅らせなければならない

無条件刺激の予期の程度が横ばいになるためには、学習が進めば予期の変化量が小さくなればよいと考えられます。どうすればこれを実現すればよいでしょう。無条件刺激が来るという学習が進むと予期は大きくなり、来ないことが学習されるときには予期は小さくなっていくわけです。一方で、理論の中には無条件刺激の強さが含まれています。ここで、無条件刺激の予期の程度と実際の無条件刺激の強さの差を考えてみましょう。無条件刺激が来るかどうかわかっていない学習初期では予期は小さい値になりますので、これらの差は大きくなります。無条件刺激が来るという学習が進むと予期は大きくなりますので、これらの差は小さくなるはずです。いってみれば、無条件刺激の予測の程度と実際の無条件刺激の強さの差は、「無条件刺激が来るかどうかの予測がどの程度外れているか」を表しているわけです。学習が進むほどに予測が当たるようになり、この差が小さくなりますので、「学習が徐々に遅くなる」ことを実現できそうです。

理論2:ある試行での無条件刺激に対する予期の変化量=条件刺激の強さ×(無条件刺激の強さ-無条件刺激に対する予期)

うまくいくでしょうか。試してみましょう。条件刺激の強さを0.2、無条件刺激の強さを100とおいてみます。第1試行では、無条件刺激の到来はまったく予測できませんので、予期の程度は0です。すると理論2の式に基づくと、

第1試行での予期の変化量=0.2 (100-0) =20

となります。条件刺激と無条件刺激の対提示を1回行うことで、予期が0から20へと変化するというわけです。第2試行ではどうでしょうか。

第2試行での予期の変化量=0.2 (100-20) =16

0だった予期は20まで増加していることに注意してください。第2試行では、予期は16増加します。第1試行と合わせて、2回の条件づけによって予期は36まで増加しました。以下、どこまででも計算できます。これを繰り返してグラフにしたものが図3です。どうやら、条件づけをすればするほど学習の進み具合が遅くなることが記述できているようです。

fig3-3

図3 理論2に基づいた、対提示回数と無条件刺激の予測の強さの関係。対提示回数が増えるほど、予測の強さの変化が小さくなり、横ばいになっていく。


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