人間の命と死,そして心――『人口の心理学へ』が問いかけるもの(4)

根ヶ山:

島の子育てを見ていると,子どもが生き生きとして幸せだし,たくましいです。親がそれを認めておおらかに見守っている姿を目の当たりにするとうらやましいと思いました。

仲:

それは男の子もするのですか?

Author_NakaMakiko仲真紀子(なか・まきこ):北海道大学大学院文学研究科教授。主著に『法と倫理の心理学――心理学の知識を裁判に活かす 目撃証言,記憶の回復,子どもの証言』(培風館,2011年),『こころが育つ環境をつくる――発達心理学からの提言』(新曜社,2014年,共編)など。→Webサイト

根ヶ山:

制度的には女の子というイメージなのですが,男の子とも遊ぶときには連れまわして遊んでいますから男の子でもやれるキャパシティをもっていると思います。

親以外の大人とのつながり

柏木:

私は武蔵野市に0123吉祥寺という,いつでも親が子どもを連れてきて子どもが自由に遊べる場をつくりました。それをつくろうと思ったきっかけがあります。昔,井の頭公園のそばに住んでいまして散歩していたとき,砂場に3歳くらいの子どもが6人くらい遊んでいて,そのまわりで6人のお母さんが見ていました。すると1人の子どもがバケツをひっくり返して服を濡らしたところ,それに気づいたお母さんが「あなたの子どもが大変よ」と言ったんです。それを見て,どうして気づいた人がしてやらないのかと思ったのです。子の世話をするはそのお母さんだけということなんですね。これはいけないなと思いました。気がついた人が世話をする,いけないことは誰であっても叱る,すごいわねとほめてあげる,そうした社会の力を生かす場にしたいというのが0123吉祥寺の発想の1つだったんです。誰でもいいことはほめて認めてあげる,気づいた人が力を貸してあげる,ほめてあげるということをここではやりましょう,というのが1つのメッセージなんです。

仲:

他人の子どもに何かをするのは大変難しいものですよね。どちらの側も意識を変えないといけないと思います。

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高橋:

だんだんとグループホームの考え方が,好まなくても社会がそうせざるをえなくなってくる時代が近づいてきているのではないかと思います。そのあたりも変化していかなければいけないですね。

Author_TakahashiKeiko高橋惠子(たかはし・けいこ):聖心女子大学名誉教授。主著に『人間関係の心理学――愛情のネットワークの生涯発達』(東京大学出版会,2010年),『第二の人生の心理学――写真を撮る高齢者たちに学ぶ』(金子書房,2011年),『発達科学入門(全3巻)』(東京大学出版会,2012年,共編),『絆の構造――依存と自立の心理学』 (講談社,2013年)など。→Webサイト

柏木:

親が大事というのが,親だけが大事になっていて,そうではなくて子どもが育つためにはいろいろな大人の力や目がとても大事だと思います。大人は子どもにダメじゃないかと責めて,いいことをほめない傾向がある気がしますけれど,よその子どもに「あなたはこういうことができるのね」と言うと,その子どもも自分の力に自信をもつことがあります。そういう意味で,囲い込まないでいろいろな人の力を借りるとか,いろいろな人といる機会をつくることがとても大事じゃないかなと思います。

人口の心理学へ

高橋:

そろそろ時間ですが,櫻井さん,編集の立場から何かありますか。

――柏木先生が先ほど大野先生の著書を紹介されていましたけれど,若い人の意識としては子育てしたいという意識が男性にもけっこうあると思うんですけれど,親の世代がそれを許さなかったり,会社がそれを認めなかったりとう側面がある気がしました。先ほどのお話でも,保育園にも,状況が整えば子どもを預けたい若い世代は多いというお話でした。そうした意識の変化を生かせていないような気はしました。

――あと,大きな話ですが,心理学者が価値や政治の問題を心理学が扱わないようにしてきたのではないかなと思うのですが,今回はそこをもっとやらないといけないというメッセージだと思いました。そこに心理学者として抵抗を感じる方もおられるかもしれないなということを思いましたが,そのあたりいかがでしょうか。

高橋:

おっしゃる通りで,心理学は科学になるということで価値というものになるべく触れないで来た傾向がありますね。社会認識や政治意識の研究などをする際には,当然価値の問題を入れないと研究できませんので,そういうことをやろうとしている人は出てきているとは思いますが,やはり全体には少ないのではないかと思います。

また,社会をどこがどうやって変えるかということですよね。社会が変わらないと困るんですが,どこから変えるかということで,選挙のときにしかなかなかチャンスがないわけです。しかし,子ども食堂が全国的に広がったのは草の根の人たちが必要に迫られて頑張って,あなたができるんだったら私にもできるわ,と広がっていったということがあります。国の政策が変わるのと,人々が変わるのと両方をやらないといけないんじゃないかなと思います。そういう意味で,若い人には頑張ってほしいと思います。


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