オンライン上で見知らぬ人と関わりをもつ小学生の実態と心理的特徴

『パーソナリティ研究』内容紹介

オンライン上で見知らぬ人と関わりをもつ小学生には,どういった特徴があるのでしょうか。小学生に対して,SNS利用実態や見知らぬ人との交流・対面経験の有無と,本人の孤独感や知覚されたソーシャルサポートがどのように関係するのかが検討されました。(編集部)

鈴木千晴(すずき・ちはる):ECC国際外語専門学校講師。
中山満子(なかやま・みちこ):奈良女子大学文学部教授。→ウェブサイト

小学生とネット上の見知らぬ人

近年,オンラインゲームでの交流をきっかけに,横浜で9歳の女児が誘拐された事件や,Twitterのダイレクトメッセージでのやりとりから,大阪市住吉区で12歳の女児が誘拐された事件などが話題となっています。これらの事件のように,オンラインゲームやSNSといったソーシャルメディア上の見知らぬ人とのやりとりは,小学生にとって犯罪に巻き込まれる危険をはらんでいます。

そこで私たちは,ネット上の見知らぬ人と,会話をする,メッセージを受け取る,写真や動画を送るなどのコミュニケーションを行ったり(交流経験),実際に会ったり(対面経験)したことのある小学生について,SNS利用実態の一端を示すとともに,ネット上の見知らぬ人との交流・対面経験の有無によって心理的特性に違いがあるのかを調べました。

これまでの研究から,ソーシャルメディアの閲覧は若者の孤独感を高め,またオンライン上の友人がいる中高生は家族との情緒的絆が薄いとも言われています。ネット上の見知らぬ人との交流や対面の経験をもつ小学生も,孤独を感じていたり,身近な他者に頼れない感覚をもっていたりする可能性が考えられます。本研究では,他者を信頼できるという感覚であるソーシャルサポート知覚を,小学生にとって最も身近な他者である両親,友達,先生に対してどの程度感じているか測定するとともに,孤独感,相談できる人の数を取り上げて,ネット上の見知らぬ人との交流・対面経験の有無によって比較しました。

ネット上の見知らぬ人とコミュニケーション・対面した経験のある小学生の特徴

全国の公立小学校10校の小学6年生児童639名から回答を得て,回答の不備や,スマートフォン,ゲーム機などの携帯情報端末を利用しないと答えた児童を除いて分析したところ,157名(28.9%)の児童に交流経験が,11名(2.0%)の児童に対面経験があることが分かりました。それぞれきっかけとなったアプリについて尋ねたところ,交流経験については見知らぬユーザ同士が対戦する「フォートナイト」(31.7%)が最多であり,他にも類似のアプリが主なきっかけであった一方で,対面経験についてはInstagram(3名)やTwitter(2名)などSNSをきっかけとしたものが半数弱でした。

また,交流経験があると答えた児童と,対面経験があると答えた児童の両方が,そうでない児童より多くのSNSを利用していました。交流経験の多くはゲームをきっかけにしたものですが,交流経験のある児童は利用するSNSの数も多いことがわかりました。また,多くのSNSを利用していることで見知らぬ人との対面のきっかけが増えたり,対面への抵抗感が低まったりする可能性が示されました。

さらに,交流経験のある児童は両親と友達からの,対面経験のある児童は両親からのソーシャルサポートを低く知覚しており,交流・対面経験のある児童が両親や友達といった身近な他者に対して主観的な頼れなさを感じていることがわかりました。一方で,相談できる人の数や孤独感は交流・対面経験によって差がありませんでした。したがって今回の調査結果からは,交流・対面経験をもつ児童を特徴づけるのは,実際に相談できる相手の数や孤独感ではなく,身近な他者に対してどの程度信頼できるという感覚をもっているかであると言えます。

本研究の課題と今後の展望

本研究では,ネット上の見知らぬ人とのコミュニケーションについて,ゲームの対戦なのか,より個別的で閉鎖性の高いものなのか区別せずに尋ねました。また,SNS上の実際の行動についてもくわしく尋ねていないため,見知らぬ人とのどのようなコミュニケーションが上記のような差につながるのか,今後くわしく検討していく必要があります。手軽に見知らぬ人と対戦できるオンラインゲームや,簡単に見知らぬ人とつながることのできるSNSがますます一般的になっていくなかで,ネット上の見知らぬ人と出会う児童の実態やその背景となる要因について,今後さらに研究を深めていくことが重要です。

論文

鈴木千晴・中山満子 (2021).「小学生におけるオンライン上での見知らぬ人との関わりと知覚されたソーシャルサポート,SNS利用および孤独感との関連性の検討」『パーソナリティ研究』30(1), 33-35.