自閉スペクトラム症傾向の人はどうして対人場面が苦手なの?

『パーソナリティ研究』内容紹介

みなさんは対人場面で緊張をしますか? これまでの研究から,「自尊感情の低さ」と「公的自意識の高さ」が対人場面が苦手かどうかに関わっていることが示されています。では,自閉スペクトラム症傾向の高い人も,自尊感情の低さや公的自意識の高さと,対人場面が苦手かどうかが関連しているのでしょうか。(編集部)

木村大樹(きむら・だいき):仁愛大学附属心理臨床センター臨床教育研究員。→webサイト

人前や人と話すのが苦手なのはどうして?

あなたは対人場面(人前で発表する,グループで話す,目を合わせて会話する,など)で緊張しますか? どうして発表の直前になると不安になるのでしょうか? どうして目上の人と話すと緊張するのでしょうか?

じつは理由はたくさんあるのですが,「自尊感情の低さ」と「公的自意識の高さ」が関連していることは,これまでの研究でも繰り返し報告されています。平たくいえば,一般的にいって,対人場面が苦手な人は自信がなく人目を気にする人なのです(もちろん,そういう問題じゃない人もいます)。ちなみに,厳密にいうと,じつはどちらが原因でどちらが結果かはわかりません。人前や人と接するのが苦手だと,自信を失くして,人目が余計に気になるということは十分ありうることです。

自閉スペクトラム症傾向の高い人も同じ?

ここ数十年ほどで,「発達障害」という言葉が広く知られるようになりました。今回の研究では,その「発達障害」の中でも「自閉スペクトラム症」(以前は「アスペルガー」,「広汎性発達障害」という名前もよく使われていました)に着目しました。というのも,自閉スペクトラム症を抱える人の多くは対人場面が苦手だからです。ところで,発達障害というのは,「白か黒か」で分けられるものはなく,「0~100のどのあたりか」というようなものです。そして,「自閉スペクトラム症」という診断がついている人だけでなく,グレーゾーンにいる人たちもまた,特有の悩みを抱えているのです。そこで,今回の研究でも自閉スペクトラム症の「傾向」の高い人に注目しました。

彼らもやはり,これまでの研究で報告されてきたように,自尊感情の低さや公的自意識の高さが関連しているのでしょうか? つまり,自信がなく,人目を気にすることで,対人場面に出るのを尻込みしてしまうのでしょうか? それを調べるために,約400人の大学生・大学院生に質問紙に答えてもらいました。答えは,ほとんどYESでしたが,一部NOでした。どういうことでしょうか?

自閉スペクトラム症傾向の高い人が集団に溶け込むのが苦手なのは……

ほとんどYES:自閉スペクトラム症傾向の高い人もやはり,自尊感情が低く,公的自意識が高いほど,対人場面が苦手でした。やはり,自閉スペクトラム症の傾向が高いかどうかにかかわらず,自信がなくて,人目を気にしている人ほど,対人場面で不安になったり緊張したりしてしまうのです。

図 両群の公的自意識尺度と尺度Ⅱ「集団に溶け込めない悩み」の関係を表す回帰直線(AQは各群の平均値を代入。回帰直線は各群の観測範囲のみ表示)

一部NO:しかし,一部例外が見つかりました。自閉スペクトラム症傾向の高い人は,「集団に溶け込めない」という悩みに関しては,公的自意識は関連していなかったのです。人にどう思われるか,印象は悪くないか,と心配するからみんなの会話に入れない……のではないのです。このように一部の例外が見つかったことは,新たな発見です。

今後の課題

では,次に気になるのは,自閉スペクトラム症傾向が高い人が集団に溶け込めないのには,他にどんな要因が関係しているのだろうか?ということです。すぐに思いつくのは,コミュニケーションをとることや暗黙のルールを察知することが苦手だという能力の問題です。他にも,いじめられたり,からかわれたりした過去の経験も影響しているかもしれません。じつは,この「社会的スキル」と「からかい体験」の2つについては,すでに海外の調査で確かめられています。

もう1つ気になることは,「傾向の高い人」だけでなく,実際に自閉スペクトラム症の診断を受けている人も同じなのか?ということです。今回対象とした一般の大学生の中のグレーゾーンの人と,実際に診断を受けている人では,何か違いがあるかもしれません。

論文

木村大樹 (2019).「自閉スペクトラム症傾向の高い大学生の対人不安の特徴――自尊感情および公的自意識との関連から」『パーソナリティ研究』28(2), 97-107.