18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(5)

成年年齢の引き下げをどう考えるか

発達心理学では,小学6年頃には抽象的に経済活動を理解できるようになりますが(4),社会科学的に理解できるようになるには高校時代を待たなければなりません。高校生が社会科学的に理解できるといっても,ここでは研究者の質問に答えられるようなことを意味するので,実際に行動できるわけではありません。社会科学的に理解できる高校生以降に実際に挑戦する機会を設けることが必要ですが,18歳成年ではその期間は設けられません。

――18歳になる前に,契約の意味や,契約に伴う責任など,法的なものの考え方を身につけるための教育や,あるいは消費者教育や,金融に関する教育を充実させるのであれば,成年年齢を引き下げられますか。

成年年齢の引き下げとは関係なく,いまでも法の精神を教えることは必要だと思います。私の見るところ,青年は自分が権利主体であることに十分に気づいていません。そのため,社会に不満をもっても,それを解決する社会的な手立てを知りません。

したがって,単なる消費者教育に終始するのではなく,権利を教えることで責任も教えること(自分が権利を行使できることは他人の権利を守る義務があること)が必要です。また,金融などの被害は必ずしも未成年者だけでないことから,教育に頼る発想よりも,消費者保護の充実の方が望まれます。

学校での知識の伝達やスキルの形成と,それを実際に彼らが社会の中で使ってみることとは違います。彼らにとって,ものを買うことは,法が規定するような権利・義務関係に入るといった抽象的なことではありません。例えば,誰かにおごったりすることで友人関係や親子関係をつくり変えて自立していくものとして体験されます(5)。そこで,彼らの自立を促す取り組みとしては,生活世界での発達を支援することが必要です。

――発達の支援というと,具体的にはどんなことですか

読売新聞社(6)によれば,18,19歳の青年は成年年齢引き下げに反対しています。彼らが「大人ではない」とする理由は「18歳に引き下げても,大人としての自覚を持つとは思えないから」(64%)でした。次に多い理由は「経済的に自立していない人が多いから」(63%)でした。

これは学生であって働いていないので,当たり前のことのように見えます。しかし,日本は教育費に親の負担が大きいことを考えると,高等教育は無償にするか,少なくとも貸与の奨学金にして,親に負担をかけないで進学できるようにすることは,彼らの自立を促すのに有効であると思われます。青年が自分の力で自立できる仕組みをつくる必要があります。


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