18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(5)

成年年齢の引き下げをどう考えるか

18,19歳の青年が投票できることになりました。一方で,飲酒や喫煙は20歳からです。はたして18歳は大人なのでしょうか。それとも子どもなのでしょうか。大阪教育大学の白井利明教授が,青年心理学の観点からこの問題に迫ります。最終回は成年年齢の引き下げについて考えます。(編集部)

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Author_ShiraiToshiaki白井利明(しらい・としあき):大阪教育大学教育学部教授。主要著作・論文に,『社会への出かた――就職,学び,自分さがし』(新日本出版社,2014年),『やさしい青年心理学〔新版〕』(有斐閣,2012年,共著)など。

――国は18歳選挙権の実現に伴って民法を改正し,成年年齢を18歳に引き下げることを検討していますが,どう考えますか。

民法の成年年齢の基準は意思能力の有無です。意思能力とは自己の行為の法的な結果を認識・判断できることです(1)。個人が結ぶ約束のうち,守らないと裁判に訴えられてその内容の遂行を求められるものを契約と言います。契約の当事者は契約内容の遂行を求める権利を有し,相手はそれに対応する義務を有します。

商品の購入を契約したら,後で気が変わったなどという理由で反故(ほご)にすることはできません。それができるのは,説明が不十分であったなどと売り手に瑕疵(かし)がある場合だけです。この場合,自由な意思に基づくものではなかったと見なされるため,契約が無効になるのです。

意思能力は,問題となる事柄によって異なるものの,おおよそ7歳から10歳頃に可能になるとされています(2)。しかし,その年齢を過ぎても意思能力はまだ十分でないことから,未成年者が結んだ契約は,理由を問わず,つまり詐欺等の理由がなくても,後で取り消すことができます。自由な意思が契約の前提であり,それができる成人は意思能力があると見なされます。

つまり,7歳から10歳頃には自分の意思で契約を結び始め,20歳の成年までは挑戦や失敗が許されるのです。こうした仕組みは子ども・青年が社会に入るのに練習や訓練の機会を与えるものであり(3),そうした期間が可能となる成年年齢はいまのままでよいと思います。

――未成年者が完全な契約を結ぶためには,親の同意が必要です。18歳から親の同意なしに契約が結べられた方が自立を早めるのではないでしょうか。

現在の法律では,事業主になったり,結婚したりすれば,みずから完全な契約を結ぶことができます。未成年だからといって契約が結べないわけではないので,その点では実質的な問題はないように思います。

一般の青年が完全な契約を結ぶには親の同意を得られればよいといえます。親にきちんと説明して親の同意を得ることができるようになることは自立にとって大切な一歩であると思います。自立は大人が壁となったり支えとなったりすることで遂行されるものなので,自由になればそれで自立するとは考えられません。

もちろん,自分でできることを親が何でもしてしまうというのでは,いつまでたっても自立できません。したがって,ある程度できるようになったら,一定期間,挑戦と失敗を許す猶予期間をつくり,自分で試すことができるようにすることは,自立を促す仕組みであると思います。


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