18歳は大人か?子どもか?――心理学から現代の青年をとらえる(2)

大人へのなりかた

18,19歳の青年が投票できることになりました。一方で,飲酒や喫煙は20歳からです。はたして18歳は大人なのでしょうか。それとも子どもなのでしょうか。大阪教育大学の白井利明教授が,青年心理学の観点からこの問題に迫ります。第2回は青年期における「大人へのなりかた」を考えます。(編集部)

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Author_ShiraiToshiaki白井利明(しらい・としあき):大阪教育大学教育学部教授。主要著作・論文に,『社会への出かた――就職,学び,自分さがし』(新日本出版社,2014年),『やさしい青年心理学〔新版〕』(有斐閣,2012年,共著)など。

――科学技術の革新により高学歴化し,さらに現代社会は複雑化しているため,就職が遅くなったり晩婚化したりするなど,青年期の延長は避けられないような気がします。

青年期が延長したというより,青年期から成人期への移行の仕方が変わったと思います。アメリカの心理学者のジェフリー・アーネットは,青年期でも成人期でもない新しい発達段階が現れたとして,18歳から29歳までを成人形成期(emerging adulthood)と名づけました(1)

この時期の特徴は不安定さです。就職したり離職したり,実家を出たり戻ったり,恋人を変えたりすることが繰り返されます。そして,アイデンティティの探求が行われます。アイデンティティとは「自分が何者であるか」への自分なりの答えをいいます。仕事や恋愛でさまざまな選択肢を試し,答えを出そうとします。

青年期の探求と違うのは,青年期のように学生といった立場で試行錯誤をするのではなく,実際に職業に就いて探求します。それにより成人期への移行が多様化し,自分なりのライフコースを多様な選択肢の中から柔軟に選び取る可能性が高まった,とアーネットは見ています。

ほかにも特徴があります。他人の幸福のために何かをすることよりも,自己実現に関心があります。また,自分の可能性を信じています。自分の活躍を願い,自分の人生を変えられると思っています。

――大人になるべき年齢になっても,大人になろうとしないのは未熟だし,いくら多様化といっても定職に就かずに生活できるほど社会は甘くないし,就職も結婚もしないのでは社会がまわっていかないと思います。

アーネットは,成人形成期は大人に向かう時期としています。また,就職や結婚,出産を拒否しているわけでもありません。多くの若い人たちは就職も結婚もして,子どもももちたいと思っています。

大人になろうとしないというより,大人になることができない,といった方がよいと思います。アーネットは不安定であることのプラスの面を強調していますが,イギリスの心理学者のマリオン・クループらは,マイナスの面を指摘し,若い人が所属する社会階層がプラスかマイナスかを分けるとしています(2)。社会的な有利をもつ人にはプラスになるが,社会的な不利をもつ人は,不安定な状況から抜け出すことができず,いつまでたっても大人になることができないのです。


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