パーソナリティのそもそも論をしよう(1)

パーソナリティのそもそも論をしよう。パーソナリティ心理学の歴史的・社会的文脈と最近の動きとを結びつけることで何が見えてくるのか。日本パーソナリティ心理学会との共同企画として、理事長の渡邊芳之教授と常任理事の小塩真司教授が対談を行い、参加された北村英哉教授、詫摩武俊名誉教授らを交えて議論を深めました。(編集部)

→昨年に連載しました渡邊芳之教授と小塩真司教授による「歴史的・社会的文脈の中で心理学をとらえる」もぜひご覧ください

いま、そもそも論をする意味

渡邊芳之(以下、渡邊):帯広畜産大学の渡邊です。現在、日本パーソナリティ心理学会(1)の理事長をしています。今年まで、学会誌『パーソナリティ研究』の編集委員長を長く務めてきました。これからこの学会をどうしていくかということの1つとして、パーソナリティや性格についてのそもそも論をする場所を設けたいと思いまして、このような研究会を企画しました。

Author_WatanabeYoshiyuki渡邊芳之(わたなべ・よしゆき):帯広畜産大学人間科学研究部門教授。主要著作・論文に、『性格とはなんだったのか――心理学と日常概念』(新曜社、2010年)、『心理学方法論』(朝倉書店、2007年、編著)、 『心理学・入門――心理学はこんなに面白い』(有斐閣、2011年、共著)など。→webサイト、→twitter: @ynabe39

小塩真司(以下、小塩):早稲田大学の小塩です。いま、日本パーソナリティ心理学会の国際交流委員長をしています。2016年の日本パーソナリティ心理学会でも海外からゲストを呼んで、国際交流をしていきたいと思っています。最近は若い世代は海外の学会に行って発表もしていると思いますが、個々には交流はありますが、言葉の問題もあって、隔絶したところもあるので、そういった実感をお話しできればと思っています。

Author_OshioAtsushi小塩真司(おしお・あつし):早稲田大学文学学術院教授。主要著作・論文に、『Progress & Application パーソナリティ心理学』(サイエンス社、2014年)、『性格を科学する心理学のはなし――血液型性格判断に別れを告げよう』(新曜社、2011年)、『はじめて学ぶパーソナリティ心理学――個性をめぐる冒険』(ミネルヴァ書房、2010年)など。→webサイト、→twitter: @oshio_at

北村英哉(以下、北村):関西大学の北村です。来年度、関西大学で開催する日本パーソナリティ心理学会大会(2)の大会委員長をしておりまして、何か企画のヒントを得られればと思っています。

Author_KitamuraHideya北村英哉(きたむら・ひでや):関西大学社会学部教授。主要著作・論文に、『進化と感情から解き明かす社会心理学』(有斐閣、共著、2012年)、『認知と感情――理性の復権を求めて』(ナカニシヤ出版、2003年)、『なぜ心理学をするのか――心理学への案内』(北大路書房、2006年)など。→webサイト、→twitter: @pentax

詫摩武俊(以下、詫摩):詫摩と申します。日本パーソナリティ心理学会は、以前は日本性格心理学会と言いました。いまから30年ほど前に日本大学の大村政男先生(3)と私と、あと渡邊君と佐藤達哉君(4)が私のおりました東京都立大学の大学院の学生でして、大村先生を含めて4人でいろいろと話をしました。ちょうどいろいろな学会が作られる頃だったので、性格心理学会を作ろうという話になり、平成になってからできました。ですので、学会ができてから平成の年数と同じくらいになります。私が初代の理事長を務めました。大学を辞めた後はしばらく非常勤の講義などをしておりましたが、いまはどこにも所属せず、まったく何もしておりません。今日は若い方が集まって、性格やパーソナリティの遺伝と環境の問題についてお話があるということを伺ったのでまいりました。

詫摩武俊(たくま・たけとし)。東京都立大学名誉教授、東京国際大学名誉教授。日本性格心理学会(現、日本パーソナリティ心理学会)初代理事長。

渡邊:今日は他に日本パーソナリティ心理学会の若い方が何人か来てくださって、ありがたいです。また、私の恩師である詫摩先生がわざわざ来てくださいましたが、このことは今日われわれがこの研究会をやろうと思ったことと非常に関係があります。

私が東洋大学の社会学部で社会心理学の基礎教育を受けて、東京都立大学の大学院に進み、社会心理学の加藤義明先生(5)の研究室に入りました。そのとき東京都立大学の研究室の主任教授でいらしたのが詫摩先生でした。詫摩先生は心理学講座で人格心理学を担当されていました。

1年生の最初のときに詫摩先生の人格心理学のゼミをとって、そのときのゼミが、世界にはいろいろなパーソナリティの理論があるので、院生1人ひとりがいろいろなパーソナリティ理論について勉強してきて発表をしなさい、というものでした。私は社会学部卒業でしたから、心理学の一般的な概論を習いませんでしたので、パーソナリティの心理学のことは受験勉強の際に概論書で勉強したくらいでした。いろいろなパーソナリティ理論から1つを選べと言われても選べなかったんですが、詫摩先生が「いろいろな理論が世界にはありますが、中にはアメリカのミシェル(6)という、パーソナリティなんてないという心理学者もいる」とおっしゃった。それを聞いて、私は「ええっ」と思い、興味をもちました。そのミシェルのPersonality and assessmentという本(7)を読もうと思いまして、アメリカでもそれが絶版で手に入らなかったのですが、先輩がその本をもっておられて、本を借り、それを勉強したのが、私の心理学者人生の始まりでした。

ミシェルの本を読んで、私はまったく違和感がありませんでした。ミシェルは広い意味では社会心理学の研究者で、かつきちんとした行動主義の教育を受けた人でした。日本パーソナリティ心理学会の前の前の理事長であった杉山憲司先生(8)をご存じだと思いますけれど、私は東洋大学の1年生のときのゼミは杉山先生でした。杉山先生はいまでこそパーソナリティ心理学者という位置づけだと思いますが、もともとは青山学院大学でネズミを使って学習の研究をされていました。学習理論からパーソナリティや社会的行動を考えるという基礎教育を東洋大学の学部で受け、東京都立大学に行ったらミシェルを読むことになった。運命みたいなものだったのかなと思います。

詫摩先生のゼミでミシェルの本を発表させていただいて、すごく面白かったので、詫摩先生にこの本を翻訳できないかを相談し、誠信書房から刊行することができました。詫摩先生のご専門は双生児研究で性格の遺伝です。東京大学の博士論文も双生児研究でお書きになられましたし、遺伝を基盤にした性格研究の日本の第一人者としてこれまで研究をされてきました。

面白くないですか。性格の遺伝が主な専門である先生のゼミで、私は性格なんて状況でどうとでも変わるという本に出合い、それが私の一生のテーマの1つになっている。そういう環境が、昔はいろいろなところにありました。毎日先生方といろいろなとりとめのない話をして、昔のことを教えてもらいました。詫摩先生は三十何年も先輩の先生ですが、私が院生の頃には他の先生方や先輩の方からも昔はこうだったとか、自分の分野ではこんなことがあってとかいう話を聞く機会がものすごくいっぱいありました。

それがいまどうなのかなということがちょっと気になっていました。最近、方法論とか研究法の本がすごく売れるそうです。私たちの頃は研究法は先生や先輩から直接教わるもので、本で勉強するということはありませんでした。大きな理由として2つあると思います。先生や先輩と院生との距離が近くて教わりやすかったということが1つですが、もう1つは方法が複雑になって難しくなったということがあります。院生が勉強しなければいけない研究方法がすごく増えてきて、先輩から教わっているのでは間に合わなくなったということも大きいのだと思います。

研究室の環境でインフォーマルな場で伝えられてきた昔話や研究上のいろいろな、文字にして伝えるには適さない知識だとかやり方、作法などが、若い人たちに伝える場所が減っているのではないかと少し感じています。大学や研究機関でそういったことがなくなってきているのであれば、その一部を学会が肩代わりするということができないかと少し前から考えていました。

今日お話しさせていただく小塩先生は私の10歳年下です。詫摩先生と私ほど離れてはいないのですが、10歳も違うと心理学の世界での経験がだいぶ違います。見えているものが違います。私はおじさん役で昔の話をしますが、小塩先生は最近の研究をいろいろご存じですから、いくつかのテーマについて私が昔話をして、小塩先生が最近はこうです、という話をしながら考えていったら面白いのではないかと思いました。


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